6月10日、土曜日。今日はいよいよ子供たちもおまちかねの実釣です。
梅雨の合間につき、天候が大変気になるところではありましたが、当日の午前中までは何とかもちこたえてくれるとのこと。テレビでは日々刻々と変わる予報に、僕は正直言ってやきもきしていました。
前日の夜は午後10時と早めに就寝。しかし、寝床にはついたものの1、2時間ほどウトウトしただけで、ほとんど寝付けない状態です。「みんなに釣ってもらえるやろか」や「何人くらい来てくれるんやろか」など、いろんなことをごちゃごちゃ考えていると、ますます目がさえてくるようになりました。
結局、夜も明けきらぬ午前4時過ぎ、「あーっ、寝てられへんわ!」とばかりに早々と荷物をまとめ、実習場所へと出発です。
紹介が遅れましたが、今回の実習場所は大阪府大東市にある「深北治水緑地公園」。ここはその昔、大阪東部地域をたびたび襲った浸水からの被害を防ぐため、「寝屋川」という河川に隣接して設けられた公園です。普段はテニスコートや野球場など、府民からは広大なレクリエーションの場として利用されているのですが、洪水時などは公園の敷地自体に水を貯めることができ、地域住民をその危険から守ってくれるのです。今回はこの公園内にある「深野池」を選択しました。この池の南側(左側)は比較的水深があり、ヘラ釣り師たちがたくさん集まっています。本日はたくさんの子供達が中心となる釣り教室。常連たちに迷惑をかけないためにもここで竿を出すことだけは避けましょう。
池の北側(右側)では釣り人が2、3人しかいません。ラッキーにもがら空き状態。ここなら他の釣り人にも迷惑がかからないでしょう。
早速、僕は竿1本先の水深を測るため、道糸にタナ取りゴムをつけての床取り。水深はなんと40センチと、想像を絶する浅場です。おまけに竿を上げるたびに水草が引っ掛かってくるといった始末。
2時間弱の試し釣りの結果、アタリは皆無。釣り教室では未だかつて魚を釣ったこともない親子が何人もいます。何とかして釣らせてあげたいという気持ちはあるのですが、今日のフィールド条件を見た限りでは非常にキビシイー。
最悪の場合を想定し、今回の実釣には前回の教室で作ってもらった「もんどり」を持参するようにと伝えてあります。たとえ魚が釣れなかったとしても、このもんどりにさえ小魚やエビなどが入ってくれれば子供たちのご機嫌を損ねることはないのですが。と、個人的にあまい見解ですが、そのようなごまかしは恐らく通用しないことでしょう。
そろそろ試し釣りを終えようとしていたとき、僕は重大なミスを犯していることに気付きました。今日は午前7時に講師陣が集合し、午前9時の開始時刻までに生徒たちの仕掛けをセット(約30組分)することになっています。しかし、針や糸、ウキといった仕掛け類は持参しているものの、肝心なノベ竿は教育センターに置いたまま。あわてて、センターに連絡をとると「生徒方からの電話応対のため、現場への到着は午前8時30分頃になります」とのこと。仕掛けの準備とは、当然穂先へのセットまでを想定してのことです。果たして、講師全員がかりで開始時刻までに30組分の仕掛けを準備することができるのでしょうか。
午前7時、講師全員(4名)が揃ったところで事前のミーティング。まずは、会場本部の設営場所を決めなくてはなりません。そこで、小橋の手すり部分に「JOFI大阪(大阪府釣りインストラクター連絡機構)」の会旗を張り、橋のたもとを本部とすることにしました。
午前8時過ぎ、教育センターのスタッフ陣が到着。すぐに竿をはじめとする道具類を降ろし、大急ぎで仕掛けをセットしていきます。これにはセンターのスタッフも手伝ってもらうことに。
今回は㈱ヤマシタの「サビキちゃん・ハゼ・4.5m」仕掛けを使用。この仕掛けは針、ハリス、道糸、ワリビシ、ウキなどが一体化しており、穂先に道糸部分をセットするだけですぐに現場で竿が出せるという便利なもの。ただ、今回は準備した竿の長さが3.6メートルということで、仕掛けの長さとのバランスがとれません。そこで仕方なく道糸を半ヒロ程度切断し、再度チチワ(ぶしょうづけ)を作り直しました。これについても、僕の準備ミス。ミス、ミス、ミスの連続でスタッフの皆さんにも多大なるご迷惑をおかけすることに。「どーも、すみません・・・」。
仕掛けをセットしている側では、続々と釣り教室の生徒たちが到着しています。最寄りの駅から講師が引率した生徒たちも合流し、辺りは一気に騒々しくなってきました。「おっちゃんら、はよせーよ」と言わんばかりの子供たちにも取り囲まれ、スタッフ陣はもはや大慌ての形相。焦りまくった僕も手が震えてくるほどでした。
とにもかくにも、何とか出席組数分(24組)の仕掛けがセット完了。バケツにはネリエも準備できたということで、親子一組に対し1本の竿とネリエひと握りずつが配られていきました。
午前9時を少しまわったところでいよいよ実釣開始。竿を手にした生徒たちは小橋を境に左右のポイントへと散っていきました。仕掛けのセットを終えた講師陣も生徒たちを巡回していくことに。
開始早々、いたるところではトラブルが続出。チビッコたちからは「針が切れました」や「仕掛けが絡まった」といった申し出が続々と舞い込んできます。また、木の茂み付近釣っていた子供は「針が木に引っ掛かって外れへん」などなど。講師全員は右へ左へと大忙しです。
釣り開始からはや、1時間が過ぎようとしていますが未だに釣れた気配はなし。一方では、チビッコたちのほとんどがもんどりを持参し、ネリエを仕込んで小魚が入るのを待ち望んでいます。チビッコの中には、池のほとりに身を乗り出してもんどりを沈めるといった光景も。近くにいた講師からは、「危ないでぇー!」
巡回中、各講師からはエサの付け方や打ち込むポイント、アタリの取り方などを説明していきます。「何とか釣らせてあげないことには・・・」。などと考えているうちに、小橋の近くで釣っていたお父さんから威勢のいい叫び声が上がりました。「釣れたぞぉー」
本日の第一号、手のひらクラスの「マブナ」です。お父さんは子供に竿と魚を握らせての記念撮影。「写る時は、ええ顔せえよー」との声もかかっています。
これを機会にあちこちのポイントからも朗報が届くようになりました。親子の笑顔も最高潮。「ちっちゃい魚(モロコ)がいっぱい取れた」や「エビもいっぱい入ってるわ」など、もんどりを手にした子供たちもうれしそうに池の周囲を走り回っています。
10~15センチ程度のマブナばかりではありますが、時間の経過とともにポツポツと釣れるようになってきました。「掛かったけど、外れてしまった」といった惜しい会話も聞こえてきます。また、わずかなアタリを逃さずしてフナを釣り上げた小学生は「どないや、オカン!」とばかりに大威張り。これに対し、「なんでそのパワーを勉強に生かされへんねんや!」と本音を返したお母さん。的をえた回答に僕は思わず笑ってしまいました。
正午のサイレンとともに楽しかった実釣のひとときもタイムアップ。竿を手にした親子の皆さんは本部へと集合してもらうことになりました。貸し出した道具類を回収した後、参加者は全員揃っての記念撮影。「はい、チーズ!」。
満足気な顔の女の子。少し残念といった様相の男の子。また、子供以上の笑顔を見せてくれたお母さんやお父さんと、表情はさまざまですが、釣りを通じた親子のふれあいにより意義のある行事となったことだけは間違いありません。
ただ、講師全員が悔やまれる点を言わせてもらうとすれば、「全員に釣らせてあげたかった。釣れた人にも、もっとたくさん釣らせてあげたかった」というのが正直な気持ちです。でも、釣りを始めるきっかけというものはつかんでいただけたと思うので、これからは家族揃って安全にそしてルールを守っての釣りをエンジョイしてくれることを願うばかりです。
実習の後、竿をはじめとする道具類や弁当を持参し、午後からも釣りを楽しむという生徒さんもおられました。
「気をつけて釣ってくださいネ」と、声をかけると「ありがとうございました。楽しかったです」と、涙の出るような一言。僕らは気を良くして釣り場をあとにすることができました。
次回は6月24日~25日、奈良県下北山村での合宿。これにより前期の親子ふれあい釣り教室は終了となります。施設内にあるため池でのバス釣りや渓流でのヤマメ釣りなどを指導する予定。でも、天候だけが心配。どーぞ、晴れてくれますように!